MY TREE ペアレンツプログラム

子どもの虐待・DV問題を抱える親の回復支援

森田ゆり(エンパワメント・センター)

MY TREEペアレンツ・プログラム はグループのエンパワメントの力動とホーリスティックなアプローチを活用した虐待・体罰をしている親の回復支援プログラムである。

筆者によって開発され、2001年から一年半の試験的実践とプログラム修正作業を踏まえて、03年、04年と07年にスペシャリスト養成講座を開き、実践者を養成した。

MY TREEスペシャリストは、次の条件を満たしている。

  1. すでに子どもの虐待、DVの予防、介入、治療の現場で経験を積んでいる。とりわけ地域の虐待・DVの行政、民間のネットワーク活用の実績がある。
  2. MY TREE開発者による100時間の研修を受講している。(子ども虐待とDVに関する研修+MY TREEペシャリスト養成講座+トレーナー・ファシリテーターのスキル研修など)
  3. MY TREEの実践者として登録し、スーパーヴィジョンのセッション(個別とグループ)に定期的に参加し、非公開のメーリングリスト及び電話によるトラブルシューティング、助言、指導を受けている。

2005年8月現在のMY TREE スペシャリストは、子ども家庭支援センター相談員、地域保健担当の看護士、助産士、保健士、家庭児童相談室相談員、児童相談所心理判定員、児童養護施設職員、民間の臨床心理士、被害者支援団体スタッフ、大学教員などの仕事を同時にしている人たちである。

過去7年間で大阪府と兵庫県、三重県内で30クール(各ク-ル10人前後で15回開催)の実践が終了。約300人の修了者が、子どもの虐待的行動を終止する成果を出している。

 

対象者

子どもに対する虐待的行動に悩む親

虐待行為の自覚の有無に関らず援助に拒否的でない、もしくはなんらかの強制力の元では拒否的ではない。

 

プログラムの目的

『セルフケア』 と『問題解決力』を習得することによって、子どもへの虐待を終止する。

具体的な習得目標は別紙プログラム表(下記)を参照。

 

エンパワメントの過程

孤立感から所属感へ:他人の痛みに共感し、自分の痛みに涙してくれる人と出会うことで、無力感から脱けだす内的な力を揺り起こす。「わたしのストーリーがわたしとあなたのストーリーになるときに生まれる力」(『ドメスティックバイオレンス』森田ゆり著 小学館2001年p11)

コミュニケーションのスキル

気持ちを語り、問題解決力をつける:感情を言葉にすることによって、暴力によらない問題解決の選択肢を得る。仲間の経験話やスペシャリストからの適切な助言によって「私にも選択肢はある」と自から選んでいく。

ホーリスティックなアプローチ

MY TREE プログラムは身体、感情、認知、スピリットのすべてに働きかけ、シンボルやイメージの力を活用する。これはエンパワメントのアプローチと手を携えて、参加者の持つ力、内的資源を揺り起こす。呼吸が非常に浅いことに気づく人、呼吸と身体ほぐしの静かな時間を楽しみにして来る人など自分の身体を尊重し、いたわることを始める。

 

MY TREE プログラムの内容

15回のセッションを、地域の子育て支援・虐待防止ネットワークの協力体制を活用して実施するように構成されている。

プログラムの本体は、『まなびのワーク』『じぶんをトーク』『個別フォロータイム』『緊急電話相談先』『保育』。

プログラムは無料で提供する。保育も必ず無料提供する。加えて、プログラム参加中は無料で引き受けてくれる個人カウンセリング紹介先を確保しておく。

MY TREE 実践者は『まなびのワーク』の参加型学習のさまざまな方法に熟練している。その内容は別紙表を参照。また『じぶんをトーク』のファシリテーション・スキルと同時に、参加者の語りに適切なコメントを短く返す、又は返さないというハイレベルの力量が必要とされる。

MY TREEプログラムの特徴は、この適切なコメントを適切なときにのみ返すという内容にある。参加者の中には、すでに子育て支援や自助グループなどに参加してきた人も少なくなく、「ただ感情を吐き出すだけでは変われない」「おしつけやお説教ではない本当の助言がほしい」などと、安心な出会いの場以上の行動的変化をもたらす内容を求めている。

プログラムのテキストは「しつけと体罰」(森田ゆり著 童話館)と「気持ちの本」(森田ゆり著 童話館)の2冊で、参加者に無料配布、貸し出しするところもある。

 

MY TREE卒業生の感想

  • 子どもを前にして自分自身をありのままに表現することが出来るようになって子育てが大変楽になりました。『お母さんというのは光でなければ』という制限を自分で勝手に作り上げて苦しくても、しんどくても自分をくずせずに心の中に様々な否定的な気持ちを溜め込んでは限界を感じ何もかもいやになる、またいつまでも怒鳴り続ける悪循環から脱出できました。
  • 初めて人に尊重してもらった。笑われずに静かに話し聴いてもらったこと、これまでいろんな場所にいって時間とお金を費やして変わらなければと一生懸命やってきたけど、この「MY TREE」が一番良かった。
  • 人からほめられたり認められたりすることがこんなに安心感につながるものなのかと感動しました。
  • 丹田呼吸が役に立っています。落ち込んだとき、呼吸法をやり、一息入れてから考え直すようにしています。
  • 安心の場(守秘)があったこと。誰も自分の立場を理解してくれる人なんかいないと,思い一番いとおしいはずの子どもにストレスの鋒を向け、必要以上にたたいたり、けったりしてしまっていました。今の社会「人に弱みを見せるのは負け」的な風潮です。この場があったお蔭で堂々と弱みを見せれて、何だかとてもホッとしました。
  • 不安感なしに、自分の心の中のいいことも悪いことも何でも語れるという場があったこと。すごく心のささえになりました。カウンセリングとちがい、グループなので皆の話を聞きながら、何ヶ月か過ごすうちに浮き沈みはあっても、前向きにがんばるパワーをもらえました。
  • 現状認識と自分自身の問題とたたかっていく決心がついたこと
  • 自分の心と身体を傷つけることはないんだと思った。他の誰とも比較することはないんだと思ったら、すごく気が楽になりました。自分を見下すことはもうやめようと思える。
  • 人と人のつながりの大切さに気づいた。もっと自分を大切に人も大切にと考えるようになった。呼吸法やメディテーションその他のワークを通して「自分」について考えるようになり「気」を感じたりすることで自分の持つパワーに少し触れられた。
  • 自分の意見を聞いてもらったり、アドバイスを頂いたり、人の話を聞いて擬似体験をしたり、子どもに対する態度や言葉のかけ方を学んだりと、中身の濃いミーティングでした。
  • 楽してもいいんだ。子育てでも、それ以外でも苦しかったら人の助けを借りてもいいんだということをしっかり学んだ。
  • 結果がでない自分に憤りを感じた時期を超え、光の帯が見えつつある。
  • 園庭の桜の木、一目ぼれして引き寄せられた。この桜が満開になる頃の自分を想像する。
  • 身分を明かさない不思議な12人の仲間たちとの出会い。全て価値観の違う者どうしで、友達にはならないタイプの人々との出会いがわたしを救ってくれたのです。人との出会いで人生は変わるということをあらためて痛感しました。
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