背高女とは何か~目線が変われば世界が変わる~

森田ゆり(エンパワメント・センター主宰)

有事法制の廃案を

有事法制3法案が国会審議されている。日本がすぐにも戦争体制を取れるように、民間人の土地や家屋を強制的に使用したり、地方自治体も民間企業も首相の権限で戦争に駆り出し、さらに住民は自衛隊の命令に従わなければ処罰されるという、まるで戦前の「国家総動員法」のような戦時法制である。

小泉首相は有事法制の必要性を「備えあれば憂い無し」と言ったが、現実は逆ではないのか。日本が軍事力を備えるから、北東アジアの緊張が高まり、日本が米軍への支援体制を拡大し米軍の要求に従わなければならない法律を作るから、国際テロ攻撃のターゲットになる憂いが増大する。軍事力を備えるから日本に住む市民の憂いが増すのではないのか。

有事という名目のもとに、日本の市民を暴力の危険に曝す法案、市民の人権が大幅に制限される法案の成立を阻止するだけでなく、廃案になるまでわたしたちはしっかりと監視し続けよう。

 

背高女という非暴力アクション

去る6月1日、有事法制の廃案を訴えて「第3回ピースwithアクション:非暴力の集い」(エンパワメントセンター主催)が大阪で開かれた。4時間を超える熱気の中で、子どもも老人も、障害者も健常者も、日本人も地球人も、実に多様な人々約400人が戦争準備には協力しない思いをそれぞれのやりかたで表現した。イベントの最後には16人の華やかな衣装に身をまとった背高女がアフリカンドラムバンドとNYからのジャズサックスのパワフルな演奏にのって、「あきらめない女たち」ダンスを踊り、非暴力のメッセージを送った。この背高女こそ、今、非暴力ムーブメントや女性たちの運動の中で、注目を集めている異色集団である。

「わたししたちは劇場で、路上で、デモ行進で、、、どこでも歩き、踊るせいたかおんな背高女です。地上2,5メートルの視点から、グローバルに世界を眺め、ローカルに行動する女と女の子たちです。わたしたち背高女の多くは、女性と子どもへの暴力・虐待防止、被害者援助の仕事をしています。わたしたちは日本がアメリカに追従して、暴力を前提とする軍事大国にならんと駆け足でその準備をしていることに深刻な危機感を持つ女たちです。わたしたちは背高く歩きまわって、家庭内の虐待にも、学校、職場、路上での暴力にも、戦争という国家レベルの暴力にもNO! の声をあげ、対話による対立解消行動にYESを言い続けます。

大きい女はいとわれてきました。物理的にも、社会的にも女がスペースをとることはいやがられてきました。うるさい女、騒がしい女は煙たがられてきました。女は隅の方で、場所を取らずに、存在感を誇示せずに、つつましく、目立たぬように、子どもと男たちの世話をすることが美徳とされてきました。

しかしわたしたち背高女は、いのちを脅かすあらゆる暴力にNOの声を広げるためには、この華麗なる巨体で存在感を誇示し、いのちの讃歌を歌い行進します。母と娘、おばあちゃんと孫娘も共にスティルツに乗って、目立ち、にぎやかに、リズミカルに、楽しく、日本のあちこちに神出鬼没します。

近々、永田町にも30人、50人の群れで登場し、国会周辺警備の機動隊と国会議員たちに2.5メートルの高みからにこやかな微笑を送るつもりです。」

 

背高女のはじまり

2年前の6月に、背高女は神戸で初デビューした。産経新聞と神戸新聞が写真入りで大きく取り上げた。「圧巻! 背高女。女性たちのエンパワメントを目的に15人の女性がスティルツという竹馬状の装具を着け、身長2.5メートルに変身するパーフォーマンス。パワフルな癒しが爽快だ。」「日米新ガイドライン関連法や国旗、国歌法に危機感を持つ関西の女性たちが、自分たちの声を政治に反映させようと『背高女プロジェクト』を始めた。」

昨年9月11日事件以降は、アフガニスタン空爆停止や自衛隊の海外派遣の中止を求めて、関西でのいくつものデモ行進や市民集会に登場してきた。今、背高女は関西だけでなく、沖縄、四国でもグループが誕生し、さらに関東、北陸などの他の地域にも広がろうとしている。

1998年の10月。わたしは自分の個人通信「エンパワメントの窓」の誌上で初めて「せいたかおんな」という命名をして、一風変わった継続的な非暴力アクションへの呼びかけをした。

「背高女プロジェクトへの招待:身長2.5メートルの女たち、女の子たちが20人、30人、100人と歩いてくる。彼女たちは華やかな衣装をつけて、ドラムのリズムに乗って、溌剌とした表情とあふれんばかりのエネルギーで、さらにその巨体で人々を圧倒する。彼女たちは劇場で、路上で、デモ行進で、どこででも歩く。地上2.5メートルの視点から、非暴力を訴え、いのちを讃歌する女たちを背高おんなと呼びましょう。このプロジェクトを始めます。自分達でスティルツ(竹馬のような物)を作り衣装を縫います。 電動大工道具を持っている人、作業場を借りられる人、裁縫の得意な人、大歓迎。技術や道具はなくてもやる気のある人、楽しく非暴力を主張したい人も、大歓迎。」

21年ぶりに日本で暮らし始めてまもなく、わたしは日本の政治が、戦争という暴力の制度を着々と準備している現実を露骨に突きつけられ、大きなショックを受けたからだった。具体的には、日米新ガイドライン関連法が成立するのを多くの日本人が無気力にあるいは無関心を装って見ていたこどだった。自分の日々の生活に直接の被害を与えるこのような重大事件を人々は、自分には無縁のことのようにあいまいにし、お互い口に出さないようにしあっていた。いたたまれない思いで胃がキリキリと痛んだ。

法案の審議中国会へでかけて行き、抗議の意を表明したくて雨の中を終日霞ヶ関の街頭に何日も立った。反対の声は大きくはならなかった。抗議の声を伝える新聞記事はどれも小さかった。そして周辺事態関連法が成立してしまうと、そのテーマは急速に多くの人々の関心の背後に霞んでいった。しかし法律は着実に施行され始めた。何かをしたい。子どもから老人まで、戦争協力はいやだ、暴力に変わる解決策をとの誰もがもっている素朴な思いを、暗くならずに、苦しくならずに、楽しく、誰でもが自分の言葉で出せる方法ではじめたい。

「背高女」はそんな思いの中から生まれた。

もともと、スティルツに乗って巨体の道化になるのはアフリカの伝統芸能だ。「背高女」も暴力への抗議行動、非暴力メッセージの発信をトリックスター(道化)として行なう役割を果たしている。

背高女の1人、大阪の中学教師が保健室でスティルツに乗る練習をしていたときに、入って来た不登校の生徒がスティルツに乗った教師を見ていきなり笑い出した。それ以来、その生徒は学校に来るようになったという。存在だけでもメッセージになっているのだ。

背高女プロジェクトは抗議行動の方法である前に、する人、サポートする人、見る人の間のエンパワメントを目的としている。自分の内にあるパワーに気がつきそれを活用することがエンパワメントである。

背高女を初めて見た男性はこう言った。「まず圧倒された。すごい。なにしろでかいので驚く。その陽気なパーフォーマンスに感動した。何か自分の内から大きな力がわいて来るようなきがして、ひょっとして自分にも何かできるのかと思った」

 

市民が社会の流れを作るという信念

2000年の熱い夏、沖縄カテナ米軍基地で2万7千人の人間の鎖包囲行動に参加した23人の沖縄と関西の背高女たちは、ゲートの前で巨体を揺らし楽器を鳴らしシャボン玉を飛ばして歩き踊った。マイクロフォンからはこんなアピールを何度も送り続けた。

「わたしたち背高女は女性と子どもへの暴力防止のために働く者たちです。わたしたちは沖縄の人々の健康と医療と福祉の仕事に携わる女たちです。わたしたちは米国兵士による沖縄女性・子どもへの性的暴力に、もはやこれ以上我慢がならない女たちです。わたしたちは日本政府が日米安保条約、新ガイドライン、周辺事態法などによって、沖縄の人々に犠牲を強い続けることに、もはやこれ以上我慢がならない女たちです。わたしたちは背高く歩きまわって、家庭内の暴力にも戦争と軍備という国家レベルの暴力にもNO!の声を上げ続けています。 2.5メートルの高みからグローバルに世界を眺め、ローカルに行動する女たちです。
あなたも声をあげませんか。あなたなりの声を。あなたの声とわたしの声とつなげましょう。声をつなぎ、希望のネットワークをつなぎましょう。」

きわめて単純明解なあたりまえの真理と事実をもう一度確認したい。軍備は破壊と殺人という暴力をおこなうためにあるのであって、平和と安全維持のためにあるのではない。世界最強の軍事力を保有しているアメリカは、テロ攻撃から国民を防ぐことはできなかったし、これからもできないだろう。小泉首相は有事法制を成立させて、アメリカの世界支配の忠実な下僕になりたいようだが、わたしたち国民はまっぴらだ。わたしたちは憲法9条の戦争放棄の理想を守り続け、「戦争をしない国」として、世界の他の国にはできない独自でユニークな役割を果たす日本国でありたい。だから有事法制の廃案を要求する。だから米軍基地の日本からの撤退を求める。

世の中おかしいと思っていても声をあげない人がほとんどだ。でも市民が社会の流れを作るという信念を決して奪われたくはない。そのためには心ひらいて、のびやかに人と向き合い、ハートを揺さぶる方法で思いを発信していきたい。時代が暗くなればなるほど、希望をあえて口に出して、行動にして人々と共有しあうことの大切さを痛感する。わたしとあなたとあなたの家族と友人とそのまた友人と、果てしなく続く希望の鎖にあなたもあなたなりのやり方で加わりませんか。

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